中国の ご 方言のことじゃなーんで


ここは、いわゆる広島弁の中でも呉地域の方言を集めたものです。胤森弘が書き残した
「呉方言50年の衰微」から使用例を抜粋し、私が方言を喋り 内容を補足しました。
「呉方言50年の衰微」とは記述での注意点著者・胤森弘と私呉方言の特徴

あ行か行さ行な行は行ま行や行ら行ワ/ン

  整理番号|呉方言('は強アクセント)|共通語で意味|資料記号|現代の使用頻度 A:知らない ~ C:よく使う

572
トイー
遠い
 
MHIF
C
アソコマデ イクンカー、 トイーノー
あそこまで 行くのか、 遠いなあ
補足:
「トーイー」と言わなくもないが、それでは共通語だ。方言としては「トイー」だ。
573
トウ'(タウ'とも)
(手足などが)とどく
 
SHG
C
アシガ トータカ、 モー テーハナスド
足が とどいたか、(それなら)もう 手をはなすぞ
574
トーガキ
いちぢく(無花果)
 
SHKZN
A
トーガキニャー メガナーンデ
いちぢくには 目がないのだよ(大好物だということ)
1005
トーカラ
ずっと以前から
 
ソガナコター トーカラ ワカットッタ コトジャロー
そんなことは ずっと以前から わかっていた ことだろう
補足:
古語で「とく(夙く/疾く)の昔」という言葉があり、それが「とうの昔」や「とっくの昔」になった。そんな
「とお」(旧かなづかい)のこと。
575
トーシ
(道具の)ふるい
 
SMZN
A
トーシノ メガツマッテシモータ
ふるいの 目が詰まってしまった
576
トージン
わけのわからないことを言う人
 
K
B
トージンノ ユーコター ワキャーワカラン
(あいつ、おまえ、と人物を指し)の言うことは 訳がわからない
補足:
語源は“唐人”が喋ることが通じないことによるのだろう。意味不明というだけでなく、筋や道理の通らない
ことも含み、話す人物を指すだけで、言っている内容自体を指すこともある。
577
ドーズ'
なぐる
 
MHZN
B
ツマランコトー ユータラ ドーヅクド
つまらないことを 言ったら なぐるぞ
補足:
関西では「なぐる」とは少し意味合いが違うが「どつく」とよく言う。それに相当しよう。
965
ドーナイト
どうなりとご随意に
 
S
コレダケシカ ナイケー アター ドーナイト シンサイ
これだけしか ないから 後は どうにでもご随意に してください
補足:
「~ナイト」は「~なりと」の行訛だろう。参考:635「ナンナイト」(なんなりと)。
578
ドーナローニ
どうなりましょうか
 
SMH
C
コガニシテモローテ ドーナローニ
こんなに(良く)してもらって どうなりましょうか
補足:
この語はかならずしも疑問ではない。疑問の場合はよく似た「ドーショーカ」(どうしようか)がある。
579
トーニ
ずっと前に、とっくに
 
SMHK
C
トーニ インデ シモータヨ
とっくに 帰って しまったよ
966
ドーノコーノ
ああでもないこうでもない
 
S
ドーノコーノト ユーテモ ヤッパリ ココニクルノー
なんだかんだと いっても やはり ここにくるなあ
補足:
「ドーコー」とも言っただろう。こんな語には「アージャコージャ」などがある。
580
トーノムカシ
以前に、とっくに
 
SMK
C
ソリャー トーノムカシニ スンドラー
それは ずっと以前に おわっているよ
581
ドーブク
(衣服の)綿入れ
 
MHZFN
A
サムケリャー ドーブク キトケヤー
寒いのだったら 綿入れを 着ておけよ
補足:
いわゆる「どてら」のこと。共通語では「袢纏(はんてん)」で、おおむね関西で「綿入れ」というらしい。
582
ドーヤラコーヤラ
どうにかこうにか
 
M
B
ドーヤラコーヤラ シケンニ トータデヨ
やっとのことで 試験に 合格したよ
583
'ール
合格する
 
B
エンヤラサットデ シケンニ トータンヨ
やっとのことで 試験に 合格したんだよ
補足:
「トータ」は、私の時代では促音をつけて「トオーッタ」だったと思う。これなら共通語になるか…。
反語:444「スベル」
584
トカケ
とかげ(蜥蜴)
 
H
B
イシガケニ トカケガ オルド
石垣に トカゲが いるぞ
補足:
用例の「イシガケ」を石崖でなく石垣としているのは間違いではない。参考:73「イシガケ」
585
ドガ'ーモコガ'ーモ
どういってもこういっても
 
K
B
ドガーモコガーモ アリャーセンヨ
どうもこうも なりはしないよ(ないよ)
補足:
共通語で「ドーモコーモ」や「ドーニモコーニモ」とも言ったが、「ドガーモ・・」の方が表現がより強い。
586
ドガーナ
どんな、どのような
 
SHKFN
C
ドガーナ コトー イワレテモ イクナヨ
どんな ことを いわれても 行くなよ
補足:
長音にせず「ドガナ」もある。たしか備後地方では「ドゲーナ」というのではないか。
587
トギ
ともだち
 
SMHZGFN
A
オマエノ トギニャー ロクナヤツガ オランノー
おまえの 友達には まともなやつが いないなあ
補足:
私は使った記憶はないが、母親はいつも「トギとは仲よーせんにゃ」と言ってたものだ。
967
トキタマ
ときどき
 
S
アレワ トキタマニシカ コンヨ
あの人は 時々にしか 来ないよ
588
トギル
とがる(尖る)
 
HZF
B
ソガナ トギッタモノー モツナヤー
そんな とがったものを 持つなよ
968
'
米を洗う
 
S
コミョー トイダラ アト ミズニカシトケヨ
米を といだら 後 水に漬けておけよ
補足:
ちょっと異議あり。これは方言ではなかろう。刃物をとぐと同じ「研ぐ」と書いて、決して「洗う」ではない
行為とされる。
589
ドケトク
しまっておく、よけておく
 
SMH
C
チートノナカイ ドケトイテ クレーヤー
少しのあいだ しまっておいて くれよ
補足:
退ける(どける)は共通語だ。「どけておく」が縮まった語。なお、用例の「チートノナカイ」の最後の「イ」は
語呂だろう。そしてこれは「チートンナカ」とも言う。
1006
ドケル
のける、取り除く
 
ドケートケー ユータローガ、 ドケンケーヨ
ほかに移しておけと いっただろう、 のけないからだよ
1007
ドコモカシコモ
あちらもこちらも、あちこち
 
ドコモカシコモ メゲテ シモータノー
あちこち こわれて しまったなあ
補足:
共通語では「そこかしこ」と言うだろう。「ドコモカシコモ」はあちこちの方言に残っている。
590
ドシテ
なぜ
 
SMH
C
ドシテ ソガナ コトー ユーンカ
どうして そんな ことを 言うのか
補足:
「どうして」が縮まった語で、全国の広い地域でも言われていることだろう。同意:623「ナシテ」
1008
ドシチャッタ
どうされたか
 
コガニ サブイノニ ドウシチャッタンネー
こんなに 寒いのに どうされたんですか
補足:
「の」に相当する語の「ン」を最後に付けることが多い(ドーシチャッタン=どうされたの)。
591
ドシテ'
ぜひ、どのようにしても
 
SMH
C
ドシテモ アコニ イキタインジャ
ぜひ あそこに 行きたいのだ
補足:
「ドガーニシテモ」と言うとさらに強い意志を持つ。
592
ドダイ
まったく
 
SMHN
B
ソリャー ドダイ ムチャヨ
それは まったく 無茶だよ
補足:
「とても」の意味で関西では広く使われていて、概ね否定を伴う。「ド」は強調語と思われる。
593
トチメンボーフル
めんくらう
 
MHZG
A
アントキャー タマゲテ トチメンボーフッタデヨー
あの時は 驚いて めんくらったよ
補足:
漱石の「我が輩は猫である」に“栃麺棒うんぬん”のくだりがある。「麺を延ばす棒がうまく使えないと…」と
いったことが語源の洒落言葉だろう。
594
トットキ
晴着(はれぎ)
 
MH
B
コノ フカー トットキノ モンデー
この 服は はれ着 なんだ
補足:
「とっておき」ということ。服に限らないと思うのだが…。類似:86「イッチョーライ」
1009
'ットク
残しておく
 
コリャー イルンジャケー トットイテ クレーヨ
これは いるのだから 残しておいて くれよ
補足:
「トットク」は「~てお(teo)」が「~(to)」や「~っと(tto)」になる言葉のひとつ。広島弁には実に多い。
例:覚えておけ=オボエトケ、知っておく=シットク などなど。
595
ドッチコッチ
どちらこちら見境ない
 
HK
A
ドッチコッチナー ツキアタルノー
見境なく つきあたるなあ
969
ドッチミチ
どうせ、どのみち、結局
 
HS
ドッチミチ ワシガ ゼニュー ハラウンジャロー
どうせ わたしが 金を 払うのだろう
596
'ッパー
でたらめ
 
MHZGFN
A
オートッパー コクナヤー
大でたらめを 言うなよ
補足:
とうはち(10のうち8) → トッパチ → トッパー が語源らしい。
597
ドドクリ
どもり
 
MKZF
A
アノ ドドクリノ ユーコター ヨー ワカラン
あの どもりの 言うことは よく わからない
598
ドドノツマリ
結局
 
SMHFN
B
ドドノツマリワ ヤメタンジャノー
結局は やめたのだねえ
補足:
共通語では「とどのつまり」と言い、よく知られる「ボラ」という魚は成長に従いさまざまに呼ばれ、最終的に
「とど」と呼ばれることに由来する言葉だ。(アシカ科のトドではない)
599
ドヒン
土瓶(どびん)
 
NHZ
A
ドヒンオ オトシテ メーデシモータ
どびんを 落として こわしてしまった
補足:
現在では土瓶も知らない人も多いだろう。陶器のヤカンといったところ。戦時は金属が貴重なので、これがどの
家にもあったものだ。
600
ドヒョ'ーシモナー
とてつもない
 
ZGFNSMHK
A
ドヒョ'ーシモナー コトー シテクレタノー
とてつもない ことを してくれたねえ
補足:
共通語で「どうしようもない」という感嘆語。意味は「とてつもない」というより「とんでもない」がいいの
だが…。
601
ドベ
しんがり、最後尾
 
SMKZGFN
C
イチバン ドベ ジャッタンカー
一番 最後尾 だったのか
補足:
愛嬌のある言葉だ。「ビリ」のほうが一般的かも知れないし、同意:610「ドンケツ」もある。
1010
ドモナラン
どうにもならない
 
コー アメガフッチャー ドモナランノー
このように 雨が降っては どうにもならないねえ
602
ドヤス
なぐる
 
SMHKZN
B
アンマリ カバチュータレルト ドヤシャー ゲルド
あまり 文句を言うと なぐりつけて やるぞ
603
ドヨ'ーシ
たいそう
 
SMHZ
A
ドヨーシ イキタガルンジャノー
たいそう 行きたいのだねえ
補足:
「ドヒョーシ」になることもあったろう(このような「ヨ」が「ヒョ」になる参考:820「マヨーシニアワン」)。
604
トリヤイコ
取り合うこと
 
N
B
エーモンガ アッテモ トリヤイコスルナヨ
いいものが あっても とりあいをするなよ
補足:
「~ヤイコ」(=あう)という言い方は他にもたくさんある。(水の)「カケヤイコ」、(席の)「ユズリヤイコ」、
(荷物の)「モチヤイコ」などなど。
605
トロ'
のろい
 
MHKZ
C
トロイノー、 ナニュー シヨルンカイ
のろいなあ、 なにを しているのか
606
ドロモ'グレ(ドロモブレ)
泥まみれ
 
K
B
ドロモグレニ ナルマデ ヨーヤルノー
泥まみれに なるまで よくやるなあ
参考:425「シワモブレ」、849「~モグレ(~モブレ)」
607
ドンガメ
かめ(亀)
 
MHZ
B
ドンガメオ ツカマエテ キトラー
亀を 捕まえて きているよ
補足:
すべての亀をそう言ったものではなく、川や沼、池に生息していた泥亀のこと。
608
トンガラシ
とうがらし(唐辛子)
 
SKFN
C
ウドンニ トンガラシュー エット イレナ
うどんに とうがらしを たくさん 入れるな
609
トンギラス
とがらす(尖らす)
 
SMHFN
B
エンピツー トンギラシタラ スグオレルド
鉛筆を とがらせたら すぐに折れるぞ
610
ドンケツ
びり
 
SFN
C
ドンケツー ハシリヨッタノー
びりを 走っていたねえ
611
ドンドロ
[幼児語]かみなり、雷
 
SMHZ
B
ドンドロガ ナリダシタラ ヘソーカクセヨ
かみなりが 鳴りはじめたら へそを隠せよ
612
ドンニ
どの人
 
A
ドンニガ イーンサッタンカ
どの人が 言われたのか
補足:
関連したものに 52「アンニ」、375「コンニ」、470「ソンニ」など。いずれもどちらかというと女言葉。
613
'ンバラ
腹、大きな腹
 
SMHZFN
B
ドンバラー カカエテ エラカローノー
大きな腹を かかえて 大変だろうな(苦しいだろうなあ)
補足:
単に「腹」を指すこともあったようだが、普通は「ドン」(強調)が付いているから大きい腹。用例は妊婦を見た
感想。
614
'ンビキ
かえる(蛙)、ひきがえる
 
SHKZFN
A
ヒキドンビキ カエルノコ
(はやしことば) ひきがえる 蛙の子
同意:709「ヒキ」